7.『たのしい読みもの55』

「できる日本語」シリーズには『たのしい読みもの55』があるのですが、どうやらこ
れは同じ仲間ではないとお考えになっている方も多いように思います。書店でも、1冊
他の本棚に置いてあったりします。『たのしい読みもの55』も、すべて同じコンセプ
トで作られています。では、3つの柱からお伝えしましょう。

1)接触場面での読みを大切にする。
2)「読み」から生まれる多様な対話を大切にする。
3)自律的な読み学習につなげる。

その根底には、日本語による「読むこと」を通して、人と人とがつながり、より豊かな生活が送れることをめざしています。そして、2つの分野に分けてアイテムを作りました。

第1部「日本で暮らす」
第2部「日本を知る」

これまで初級の読み学習は、文型の定着のような形のものが多く見られました。また、
次のような意見もよく聞かれました。

  • 初級で読み学習をするなんて、それは無理。中級になってからでいい。
  • 初級はやることが多くて、とてもそんな時間は取れない。
  • 初級で楽しい読み学習をする方法が分からない。

そこで、以下のような考えに基づいて『たのしい読みもの55』を作成しました。

〇「読むために読む」「練習のために読む」ことはしない!
〇日本人が読んでも「楽しい、面白い!」と思えるものを取り上げる!
〇学習者が「もっと読みたくなる」ような工夫をしよう!
〇読んで終わるのではなく、「自分だったらどうするだろう」と考えたり、 周りの人と読んだことについて感想や経験を共有したくなるものにしよう!

では、巻末にある「シラバス一覧」をご覧ください。課に対応して1つずつ作成されていません。アイテムは、いつ読んでも結構ですが、一応「レベルの目安」を記載しました。ぜひ本冊に合わせて、挟み込むなどしてください。

【本書の使い方】

まず第1部から、いくつかのアイテムについて説明を加えます。

1「ハンバーグショップ」は、カタカタが多く使われているので、クラスによっては、1番最初のアイテムだからと言って最初に取り上げるのは適切ではありません。むしろ2「お店で見つけたおもしろい物」を先に学ぶほうが学習者のやり気を引き出します。「日本語でこんな面白いものについて読めた!」という思いが、次の学習意欲につながります。自分で100円ショップに行って「おもしろグッズ」を探してきて、次の時間に楽しそうに見せる学習者もいます。

3「遊びに行こう」は、『できる日本語初級』4課「私の国・町」で使うと効果的です。自分の国、町の紹介をしたり、友達の国、町の話を聞いてから、「じゃあ、今住んでいるところにはどんな町があるか知って、行ってみよう」という流れになります。
また、6課「一緒に!」でも効果的に使うことができます。ご当地バージョンに作り替えて使うと、よりよいアイテムになると思います。

5「野球を見に行きましょう」は簡単なメール文です。これも『できる日本語初級6課』「一緒に!」で使っているクラスもあります。さらに、19「飲み会に来る?来ない?」もメール文ですが、これは5のメール文よりずっとレベルが高いものになっています。このように本書でも、スパイラル展開を心がけています。

7「ケーキの食べ放題特集!」は、『できる日本語初級』6課のST2の【やってみよう!】で、よく使われています。雑誌によく出てくる表現である「駅より徒歩〇分」の言い方などがあり、楽しく勉強することができます。

24「電車やバスの中で見た注意書き」は、学習者がいつも見ているポスター、注意書き、中吊り広告などに目を向けるよいきっかけです。この読み学習をきっかけに「背景でしかなかった『周りの漢字・文字・文章』が、学習者の興味の対象」になることをめざして作られたアイテムです。

このように、『できる日本語本冊』と関連づけて、『たのしい読み物55』を使用することで、学習者は初級のスタート時点から、読み学習を楽しみながら進めることができます。

では、第2部に移ります。
第2部には、CDがついているので、読むのが難しい学習者は音から楽しむこともできます。

1「これは何でしょう?」は、日本語を学び始めたばかりの学習者も、とても楽しそうに読んでいます。ひらがなを必死で書いている学習者もあれば、「えっ?本当にうさぎは白い?」と思っている学習者もいます。これは学習者の文化によって、さまざまなことが考えるから面白いのです。例をあげてみます。

この答えは「うさぎ」ですが、オーストリアの学習者にとっては、うさぎは「白」ではなく、「茶色」だというのです。確かに「ピーターラビットは茶色だ!」と日本人教師は、はっとしたというエピソードがあります。

答えは「りんご」ですが、学習者が質問し始めました。

「リンゴは赤いですか? リンゴは赤じゃありません」
「甘くないです」
「リンゴは丸いですか?」

校外学習でバス旅行に行ったときのことです。学習者が作った問題をもとに「ミニクイズ大会」をして、とても盛り上がりました。『たのしい読みもの55』は、授業の中での対話だけではなく、学外での活動やコミュニティでのつながりにも役立っていると言えます。

5「てるてる坊主」は、バーベキューやバス旅行など校外学習の前に読んで、実際に「て
るてる坊主」を作ることもあります。国によっては雨が降らないようにと願うことがと
とても不思議なようです。タイの学生が「タイでは米を作りますから雨がとても大切ですから、これ(このような風習)はありません」と言ってくれました。

7「ハチ公」は、定番の待ち合わせスポットの由来について紹介しているものです。日本で住み始めて、身近にある物でもなかなかそれが何なのか知るチャンスがないようです。その町の人がよく待ち合わせに使う場所を知って、それがどんな意味があるものなのか知ると、他にも周りにあるものに興味を持ち始めるきっかけになるのではないでしょうか。

13「かちかち山」は、昔話を楽しく読んで内容を確認したあとで、「うさぎ」と「たぬき」とどちらが悪いと思うかについて話し合う活動につなげることもできます。こうした昔話がいくつか載っていますので、さまざまな楽しみ方で読み学習を進めることができます。

26「日本で最初のコピーライター」というアイテムがありますが、皆さんは「最初のコピーライター」をご存知でしょうか。留学生のパクさんは、これを授業でやった日の夕方、アルバイト先で店長とこんな会話をしたそうです。

パク「店長、『日本で初めてのコピーライター』知ってますか」
店長「えっ?知らないねえ。誰?」
パク「平賀源内ですよ。今日、学校で勉強しました」
店長「へえ、そんなんだ。ちょっと見せて、見せて」

それから、二人で話に花が咲きました。こんな人とつながるアイテムがぎっしり詰まっているのが『たのしい読みもの55』です。