4.本冊 初級・初中級 の説明

「2.コンセプト」でも提示しましたが、再度「初級・初中級・中級」の各課のタイトル」を出しておきます。中級は次の項目で取り上げることとし、ここでは初級および初中級について説明をします。

1課は、初級は3つのスモールトピック、初中級は2つのスモールトピックから出来ています。図で示すと以下のようになります。初級と初中級については、構成や進め方に関してあまり大きな違いはありませんので、ここでは「初級」を例にあげて説明することとします。

では、『できる日本語初級』8課「大切な人」を取り上げ、授業の流れに沿って、各項目について説明したいと思います。

【話してみよう】
2つの役割があります。1つは、この課のテーマについてのイメージ作りです。2つ目は、これまでに学んだ日本語、自分の知っている日本語を使って単語ではなく、文で話すように促します。「日本語でこんなに話せるんだ!」という達成感が持て、さらに「これからどんなことを学ぶのだろう」というワクワク感が出てくることが大切です。

【聞いてみよう】
【話してみよう】が終わったら、実際の場面でどのような会話が行われているのか、この課で学習する内容が含まれている会話を1つの例として、まず聞いてみます。学習者は知っている語彙や文型などを頼りに、スキャニングしていきます。
聞き終わったら、教師は「どんなことが聞こえたか」「どんな人が話しているか」など学習者の発話を促してください。最後に【もう一度聞こう】がありますが、これは【聞いてみよう】と同じ内容です。その課を学んでからもう一度聞くことによって、「もう分かる!」「できるようになった!」と感じることが達成感につながります。
また、この内容に関しては、各課の最後のぺージにある【もう一度聞こう】にスクリプトが載っています。授業で学習者が見ることはしませんが、先生方は、これを見ることでどういう会話を聞くことになるのかがわかります。

【チャレンジ!】

◆2種類のイラスト

◆授業の流れ
まず状況イラストを見て、いつ、どこで、誰が、何をしているのか考えます。授業では、学習者とやり取りをしながら、どんな状況か学習者が把握できるようにします。

「そうか、こういう状況での会話なんだ!」と分かれば十分です。短い時間での実施となります。

次に、コマイラストを見て、「こんなとき日本語で何て言うんだろう?」と考え、自分の知っている日本語でチャレンジします。その後で、CDを聞いて、何と言っているのかを確認します(自分で発見できれば、「そうか!こう言えばいいんだ」と、発見の喜びを感じることができます)。

これが、『できる日本語』の特徴の1つである「タスク先行~まずチャレンジ!」です。

【言ってみよう】

【チャレンジ!】1が終わったら、【言ってみよう別冊】1に進み、次に【言ってみよう本冊】1に進みます。

◆【言ってみよう別冊】
 よく皆さんから「どうして、【言ってみよう】が別冊と本冊に分かれているのですか」という質問を受けます。そこで、その説明から始めることにします。

 別冊は単文レベルでの練習です。ここで、単純な「お口の練習」をしたうえで、本冊の【言ってみよう】に入ります。本冊では、学習者が実際に遭遇するであろう場面・状況の中での会話を練習します。
 
 別冊にある練習は、学習者やクラスに合わせて減らしたり、さらに増やしたりして調整してください。場合によっては、別冊を飛ばして本冊から入ることができる学習者がいるかもしれません。このように、学習者に合わせた使用方法をお考えください。
 ただし、別冊には新出語彙も入っていますので、飛ばす場合には、その点を考慮してください。

「別冊に新出語彙が入っている理由」ですが、『できる日本語』は場面・状況を大切にして、あるテーマのもと課が作られていますので、入れたくても入れることができない語彙も出てきます。そのために、別冊を使用して語彙学習の充実を図っています。

◆【言ってみよう本冊】
先ほど書きましたが、本冊では、学習者が実際に遭遇するであろう場面・状況の中での会話を練習します。【言ってみよう】は、「お口の練習」ではありますが、この段階から談話での練習が大切です。

 本冊には2つのマークがあります。よく見落としている先生がいらっしゃいますが、 
 ぜひ注目してください。ただし、『できる日本語』は、どの箇所も学習者の主体的な学びを大切にしていますが、特に考えてほしいところ、自分のことで話してほしいところに記しをつけてあります。

「にこにこマーク」は、会話例全体を使って、学習者自身のことで会話を再現するという意味です。

「雲のマーク」は、会話の一部を学習者が自由に考えて話すという意味です。

【やってみよう】

ここは、スモールトピック(以下、STとします)の「できること」を達成するタスクです。(初級には3つのST、初中級には2つのSTがあります)

タスクをする前にCDを聞きます。このCDは聴解力をつけるためという誤解がありますが、聴解のためにやっているわけではありません。これは、学習者が話す際のヒントになることをねらいとしています。ですから、聞いたあとで答えをチェックすることが第一目的ではなく、会話の中に出てきた表現や会話の展開の仕方などに学習者の注意が向くように工夫してください。そのあとで、タスクに取り組みます。

たまに「時間がないので、【やってみよう】と【できる!】を飛ばしています」という声を聞き、驚くことがあります。【やってみよう】は、そのSTのゴールであり、【できる!】は課のゴールです。これを無視して、ただ【言ってみよう】をやっているのでは、総合的な力がつくとは言えないのではないでしょうか。

【できる!】

3つのST(初中級は2つ)の学習が終わってから、各課の行動目標に即した総合的な活動を行います。それが【できる!】です。どんな【できる!】のやり方があるか、ホームぺージにエクセル表が載っていますので、参考にしてください。また、実践例もいくつかアップされています。今後、いろいろな先生方の実践例を「できる日本語ひろば」を活用して共有できることを願っています。

【話読聞書】

【話読聞書】も大切なコーナーです。特に、特徴で述べた「固まりで話す」力を育てることに役立ちます。まずは、「話読聞書」という名前の説明から入りましょう。

 初級や初中級では、話すことと聞くことが中心になりますが、「話すこと」を取り上げても、やり取りが多くなっています。

  A:国はどこですか。
  B:ベトナムです。
  A:ベトナムのどこですか。
  B:ハイフォンです。
  A:いつ来ましたか。
  B:3月15日に来ました。
  
こんな一文で終わる質問&答えといった会話が多いのではないでしょうか。実は、初級
スタート時点から、「固まりで話す」ということを心がけることが大切です。中級にな
ってから段落を意識するというのではなく、教師は最初から<一文→羅列文→準段落→
段落>といったプロセスを意識して指導することが重要なのです。
  ※準段落とは、段落というだけの一貫性と結束性がないものの、段落の萌芽が見えるものを指しています。詳しくは『目指せ、日本語教師力アップ!』(2008、ひつじ書房)をご覧ください。

では、【話読聞書】を拡大して再度提示してみましょう。
「大切な人」についていくつもの文を重ねて話をしています。ただし、すぐにこれだけ
長く言うことは難しいので、右側にある吹き出しのような問いかけを教師または仲間が
することになります。こうやって、各課テーマに沿って「固まりで話す」引き出しを増
やしていくことで、自然に対話のための力がついていきます。

この課の場合、話したあとで書いて友達と交換するのもいいでしょうし、「クラスの〇〇集」として配布してもいいと思います。ここで、「書く」と「読む」という力が養われます。
この【話読聞書】そのものを読むことは、あまり多くありません。これは、あくまでサンプルであって、授業では教師自身の「大切な人」を書いたものを配布したほうがより効果的です。そのほか、いろいろな方法で【話読聞書】を進めることが可能です。

【ことば】

【できる!】の右ページに【ことば】が出ています。これは、スモールトピックごとに新出語彙を名詞、動詞、形容詞、副詞、接続詞、表現の順に提示したものです。これは学習者にとって復習用として有効ですが、さらに、ここにあることば以外にも学習者が使いたいことばがあったら書き加え、どんどんことばを増やしていくとよいと思います。

課の最初に「ことば」を導入してしまうというような使い方はしていません。ことばは文脈の中で導入し、覚えてこそ意味があります。それぞれの場面でことばを導入していくのが、適切なやり方ではないでしょうか。

太字になっている語は、旧日本語能力試験の3、4級の出題基準で扱われていた語彙と、3、4級語彙以外でもこの段階で覚えることが望ましいと思われる語となっています。

【もう一度聞こう】

最初に【聞いてみよう】で聞いた内容を、その課の学習が終わったところでもう一度聞きます。そうすることで、最初はあまりよく聞き取れなかった内容が、終わった段階では十分に聞き取れるようになり、話すこともできるようになり、「できるようになった!」という達成感を味わうことができます。

スクリプトも本冊にありますので、文法やことばの確認をすることも可能です。

※【聞いてみよう】【もう一度聞こう】のスクリプトは、各課の最後のページに載っています。
 【チャレンジ!】【言ってみよう】【やってみよう】のスクリプトは、本冊CDの中に入っています。本冊CDにあるのは<音声ファイル & スクリプト>ですので、
 見逃さないようにしてください。