『漢字たまご』に関しては、ホームページに載っていますので、どうぞご覧ください。
教え方の手引きも載せてあります。
◆「はじめに
◆「目次」
◆「本書の構成と使い方」
◆「内容構成表」
◆「漢字リスト」
◆「ヒント&ポイント」(使い方ガイド)
『漢字たまご 初級』は、7年もの間、使用に使用を重ねた末、2012年に完成しました。表紙にはネコが5匹、思い思いの格好で動き回っています。「『漢字たまご』にネコが5匹?」、これにはちょっとした「意味」があります。
本教材には、
1.何ができるかが明確になっている
2.漢字の接触場面から学ぶ
3.漢字学習ストラテジーを身につける
という3つの柱があります。
【何ができるかが明確になっている】
各課には「できることの具体例」が明記されています。例えば、2課では次のようなことが記されています。
【漢字の接触場面から学ぶ】
例えば、2課は「買い物」です。ですから、「練習2 やってみよう」では、次のような練習問題が付いています。
例1:
Ⅱ あなたはスーパーで、広告を見ます。今日は肉を買います。
① 今日は8日です。ぎゅうにくはいくらですか。
② とりにくはいつ安いですか。
③ 今日は9日です。ぶたにくはどこのですか。
また、漢字学習としては珍しく「CDを聞きながら、漢字を手掛かりに情報取りをする」というタスクもあります。これは、日本留学試験にある聴読解問題のための基礎力養成にも役立ちます。
例2:
Ⅲ これからあなたは友達と買い物に行きます。
A・Bの広告を見てください。
(ここでCDを聞きます)→どちらのスーパーで買いますか。
また、この教科書の大きな特徴の一つとして、漢字を次のように3つに分けて考えている点が挙げられます。
A 読んで書ける必要がある漢字
B 読めればいい漢字
C 読める必要はなく、サインとして分かればいい漢字
これまで、漢字学習というと、出てきた漢字に関して「読んで書けること」を要求するというケースが多かったように思います。しかし、「その漢字が接触場面で、何ができることを求められているのか」という考え方で漢字学習を見ていくと、上記のように3つに分けて考えることができます。
例えば、2課で言えば、次のようになります。
A 一~十、百、千、万、円
B 牛肉、豚肉、鶏肉
C ~産、~引き、酒
【漢字学習ストラテジーを身につける】
『漢字たまご』では、自分に合った学習方法を選択することができるように、漢字学習のアイディアをたくさん紹介しています。ここで、学習者から出た楽しい覚え方を少し記しておきます。
例:「家」 (第8課で新出漢字です)
学習者:あ、これは豚、豚です。
教師:どうして豚ですか。
(学習者は、「豕」を指差します)
教師:では、話を作ってください。
学習者:家族と豚肉を食べます。
学習者:豚は家族が多いです。
学習者:豚は家族が多いです。
また、教育現場での長年の経験をもとに、学習者が間違いやすい点をあげてあるので、注意すべき点が明確になっています。実際『漢字たまご』を使って、学習者はどんどん「漢字の学び方」を身につけていきます。「できる日本語」シリーズ全体に流れる「自律的な学び」を大切にしているのです。「えっ?どんなふうに身につけるんでしょうか?」とお思いの方は、どうぞ『漢字たまご』を実際に手に取って、ご覧ください。
『漢字たまご』は、どうやって誕生したのか?
『漢字たまご』は、『できる日本語』シリーズの仲間として出版されましたが、この教科書の誕生には、さまざまなドラマがありました。
私がイーストウエスト日本語学校に勤務し始めたのは、1990年ですが、そのころの漢字学習は旧態依然としたやり方が行われていました。ただ書いて、ひたすら書いて覚えるのだ!というやり方です。もちろん個々の先生によって、工夫はなされていましたが、それは大きな流れにはなっていませんでした。
私はまず「コミュニケーション重視の日本語教育」の実践をめざし、学校全体のカリキュラムを作り変えていきましたが、漢字教育にはなかなか手を付けられずにいました。
2004年のことでした。「国立国語研究所 上級者研修」参加者募集のお知らせを発見し、ぜひこの機会に「漢字指導に熱心な先生方に参加してもらおう」と、3人の若手非常勤講師に声をかけました。それが、『漢字たまご』が生まれるきっかけとなったのです。
3人の参加者は、「ジャヤニヤタイ」というシンハラ語で「絶対に勝つ」というチーム名をつけ、1年間、非漢字圏学習者に寄り添いながら、実践研究を続けました。
・学習者はどうやって漢字を覚えているのだろうか。
・どういう所に困難を感じているのだろうか。
・漢字は、どういう提出順序にすれば、より効果的に、楽しく覚えられるのだろうか。
1年間の研究報告については、以下のURLをご覧ください。
http://www.acras.jp/wp-content/uploads/2017/03/6bf88818922e11d17c6f92906e06a3f9.pdf
こうして1年間の研究を終え、次はイーストウエスト日本語学校全体の漢字教育を変えることになり、学内にメンバー6人からなる「漢字研究班」が設けられました。ここでは、ひたすら学習者のことを考え、次の日の漢字シートを作り続けていきました。常に、学習者に向き合い、使用した先生方と作成した先生方との対話を重ねながら作り続けた教材でした。
そして、「できる日本語教材開発プロジェクト」が設置されたことから、これまでずっと使用してきた「イーストウエスト漢字教材」が、新たに『漢字たまご』として生まれ変わることになったのです。