実践報告&現場の声

(つながり)海を越え、たくさんの対話が生まれた作品「心に残っている旅行」

ある日、台北で日本語を教えている『できる日本語』の著者の一人である澤田さんから、学習者のすてきな作品が送られてきました。あまりにすばらしい作品だったので、「ぜひもっと大勢の人に読んでもらいたい」と、澤田さん経由で学習者の方に掲載の許可を聞いてもらいました。快諾してくれたFiaさんに感謝します。

『できる日本語 中級』
この作品を読んだ先生方からコメントがどんどん寄せられ、また次の授業のときにFiaさんに渡すそうです。こうした「自分の思いを日本語で伝え、人と人とがつながっていく日本語学習」を、どんどん広げていきたいものです。

◆   ◆   ◆

今、私が家庭教師で日本語をレッスンしている生徒さんの中で、お仕事上でのきっかけと、日本のドラマが好きで、もう10年くらいご自分で勉強をされている方がいます。私とは今年の4月からレッスンを始めました。今、2週間に1回、レッスンをしているのですが、その方に「書くことも練習したいから、何かテーマをください」と言われたのです。
ちょっと考えて、『できる日本語 中級』の「伝えてみよう」のテーマを毎回、おみくじのようにして、「次回はどれにする?」なんて言いながら、選んでもらって書いてきてもらうことにしました。
今日、レッスンがあったのですが、今日のテーマは10課の「今までで心に残っている旅行について」でした。その方が書いてきた作品がとてもすてきだったので、私一人が読んで、返してしまうのももったいなく思い、ご本人に、「これ、ちょっと他の人にも読んでもらってもいいですか」と許可を得て、先生方にご紹介したいと思いました。
お時間のあるときに、ご覧ください~~
もし何かコメントがありましたら、一言いただけると幸いです。
ご本人にぜひ伝えたいと思います。
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(Fiaさんは台湾の方で、ご主人はアメリカの方です)
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私は今までいろいろなところに旅に出ました。今度の宿題を書くために、ひさしぶりに行ったことのある国の数を数えました。なんと40か国もあります。
そんな中に数時間だけ滞在した国もあるし、2週間かけて一回りした国もあります。
どれも面白い場所があります。美しい自然、おいしい料理、何千年の遺跡に、すばらしい建物。旅行中、うまくいかないときもよくあります。
でも、何がいちばん心の中に残っていますかというと、なかなか決められませんでした。でも、一生、絶対に忘れられないと言える旅はただ一つです。

それは10年ぐらいの前の秋のことでした。
ずっとフランクフルトに住んでいた義理の伯母が96歳の高齢で亡くなりました。
義父はサンフランシスコに住んでいましたけど、兄弟の中に残った義父一人とその伯母は仲良くて、よく電話したり、ドイツを訪れたりしてました。
彼女は結婚したこともないし、子どももいませんでした。
でも、彼女自身は死後のことを、どうやって義父に頼んだかがわかりませんでした。
伯母が他界したことで、貸し家を返すことや残した物の処分のことや、しなければ
ならないことがたくさんありました。
主人と私は当時、もうすぐ80歳の両親を助けに、フランクフルトにも一緒に行きました。

到着後、2日目か3日目か、皆、レンタカーで葬儀場へ行って、伯母のお骨の灰を
受け取りに行きました。
義父は受け取ったら、すぐ骨壺をトランクに置きました。
「これからどうしますか?伯母さんの灰は?」私は主人に聞きました。
「伯母さんの生まれた故郷の甜菜畑に撒きますよ」主人は答えました。
「はあ?それは法律で許されること?」
「たぶん、ダメだと思う」
主人は
「父さん、これ犯罪ですか」と義父に聞きました。
「ハハハハ、犯罪じゃない。禁止されているだけ」義父は明るく即答しました。

皆、ドライブのように、テンションが高くて、楽しく高速道路を走って、田舎へ
行きました。
それは10月下旬のことで、畑のすべての作物は収穫されていました。
午後の畑は一人もいませんでした。美しい田舎の景色でした。
義父は車を止めて、トランクから伯母の壷を取り出しました。

「ここにしようか」義父が言いました。
「ここは、お父さんのご家族の畑ですか」私は義父に聞きました。
「いいえ。ここでいいと思う」と父は答えました。
「は?」

骨壺はちゃんと密封されていたらしくて、父子二人は笑いながら、必死で開けようとしていました。
「神様、開けられなくてもいいです。遺骨を捨てるのは犯罪ですよ!」と私は心の中で祈ってました。
やっと主人が、封印してある部分をキーで破って、壷のふたが開きました。
私は怖くて、なかなか見られませんでした。
義父と義母、主人と私の4人で、知らない人の畑に立って、義父が伯母の遺灰を一気に畑に撒きました。

「さようなら、マリア」
「さようなら、マリアおばさん」

それは私が初めて人間の遺灰を見たときでした。銀色の粉。
その銀色の粉が風に吹かれて、夕日のとき、人の影のように、長く長く畑に残りました。
「伯母さんの身長が伸びましたね!」と主人が言いました。

風がやや強く吹いていましたが、伯母の遺灰がそのまま畑に残りました。
銀色の影は茶色の畑に目立ちました。車が出てから、私はもう一度、その畑を見ました。遺灰はちっとも動きませんでした。

それから、1年間、私はずっとドイツの警察からの連絡を待ちました。
遺灰を見たある人が、それを見れば、すぐわかると思います。
その畑の持ち主が警察に通報し、DNAを調査して、こちらまでくるのは怪しくないです。

「心配しないで。伯母さんは来年の甜菜になるさ」と主人が言いました。

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※ご参考までに『できる日本語中級』【伝えてみよう】のタスク内容一覧を作成しました。
『できる日本語』中級 伝えてみよう 一覧

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