実践報告&現場の声

俳句でつながる日本語学校の留学生~イーストウエスト日本語学校&浜松日本語学院

イーストウエスト日本語学校では、20年以上前から毎年「校内俳句コンテスト」を実施しています。まだ日本語の勉強を始めたばかりの10月新入生から上級クラスまで、全クラスで行います。今年も11月に各クラスで俳句授業を実施し、19のクラスから代表句が選ばれ、校内俳句コンテストが始まりました。
選者はいつものように地元の方々、国際交流協会やボランティア団体、そして先生方でした。まず結果をお伝えしましょう。

第1席
4 止めたいよ 君の笑顔と 舞う落ち葉  毛 志融(中国男性)

第2席
14 紅葉もみじ揺れ 疲れた心 洗われる       黎 千婕(台湾女性)
第3席
17 母はいま なにをしている きくのはな 俞 承骁(中国男性)

コメント賞
8  月見つつ 数え切れない 泣いた日々
ハラム バゲ ニメーシャー マドゥシャーニ フェルナンド(スリランカ女性)
共感賞
3  秋の夜 家族会いたい 写真見る
グエン タアン ニャン(ベトナム男性)

たくさんのすてきなコメントをいただいたのですが、今年は特に浜松にある日本語学校との「俳句を通した交流」についてお伝えしたいと思います。

浜松日本語学院に勤務する成瀬さんは、フェイスブックでイーストウエスト日本語学校の「校内俳句コンテスト」を発見し、私にこんなメールをくださいました。

先生がFacebookにアップされた、あの俳句を授業の中で、学生たちに紹介したいのですが。 あのままでは、読めないので、ふりがなを振ってプリントアウトして、配りたいんです。今、中級9課をやってます。俳句に触れる。俳句を作ってみよう。という活動をしています。 俳句は、リズムが大切なので、声に出して読みたい。そして、日本語を勉強している学生たちが作った…という俳句を皆に紹介したいんです。
どうでしょうか?
もちろん大賛成!
すぐにコメントが書かれた選句用紙が送られてきました。面白いことに、このクラスで第1席となったのは、以下の俳句でした。そして、なんと18人中6人が選んでいたのです。どのコメントにも留学生の同じような思いが込められていて、いろいろと考えさせられました。

11 秋の雨 親おもいだす なみだ出る
(M8 ファム ティ トゥ ハン  ベトナム女性)

◆この俳句をよんだ時、自分のきもちのようなとおもっています。それで作家のきもちが分かります。今は私の親やともだちみんなが海の近くですんでいますが、なかなかあえません。日本にすんでいますが、国のことずっとおもいだします。
◆私は雨がふる時きもちがよくなくなります。今、私たちは留学生だから、一人でせいかつしているので。いつも親を思い出してなみだがでます。雨の時、本当にさびしくて、かぞくに会いたくてたまらない。
◆この詩で読むと、私の国とか私の家族とか思い出す。特に11は本当に感動してたまらなかった。なみだが出るところだった。この詩は沢山連想があると思います。
◆同じ気持ちですから。今はりょうしんといっしょにすんでいるけど、りょうしんはしごとにとてもいそがしいのでぜんぜんあわない。だからこのしをよんだらおなじ気持ちを感じました。すばらしい。
◆私も気持ち同じ。
◆秋の雨がふっているとき、さびしいと思って、しゅう学生ですからたぶん一人で日本にすんでいます。私も秋の景色を見ているとき、親と会いたいと思います。

そして、さらに成瀬さんから次のような授業実践報告が届きました。『できる日本語中級』9課「ことばを楽しむ」の実践です。どうぞご覧ください。国内外のいろいろな日本語学校で、こんなふうに俳句を気軽に楽しんでくださることを願っています。

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イーストウェスト日本語学校の校内句会の選句を授業に取り入れて
浜松日本語学院 成瀬澄子

『できる日本語 中級』9課のトビラ

イーストウェスト日本語学校の校内句会の選句ということを、授業の中に取り入れることによって、楽しみながら俳句を鑑賞することができました。そしてその結果、全員が俳句を作ってみるということに、すんなりトライすることができました。
浜松日本語学院A6クラス(18名)では、『できる日本語 中級』9課に入るとき、この課のできる!は「俳句を作る」という活動にしようと、それに向かってやってきました。有名な俳句を読んだり、小学生による俳句を読んだりもしました。5.7.5のリズムや少ないことばで心情を表したり描写することに興味は持ってはくれましたが、いたって静かな授業でした。

しかし、「みんなと同じような留学生の俳句だよ」と言ってイーストウェスト校の俳句を見せると、「えっ!!本当?」と歓声があがり「見せて見せて・・・」と大騒ぎ。「どれが一番いいと思いましたか?どうして?」「ここに書いてください。そのみんなのコメントは東京の学校にそのまま送りますよ。」と言うとさらに歓声が大きくなりにぎやかな授業になりました。俳句が書かれたプリントを受け取った学生たちは、驚きと興味深々という表情で読み始めました。難しいのではないかと思い、とりあえず全部の俳句を私は読み上げ、ところどころ解説をしたりもしたのですが、あまり聞いていない様子でした。みんなで声を出して読み始めると、「わかる・・」「わたの気持ちと同じ・・」というつぶやきのような声が、あちらこちらから聞こえてきました。読むだけでなく、各自、一番いいと思う句を選ぶ。そして更にコメントや感想を書くという活動に進んでいくと、学生たちの表情が真剣になっていくのがよくわかりました。

『できる日本語中級』9課【できる!】

A6クラスは、ベトナムの学生やフィリピン、インドネシア、ネパールの学生、中国、台湾の学生がバランスよく集まったクラスです。クラスメートと話しながら、選句。そしてコメントを書きましました。9課のできる! この後、俳句を作ってみようという活動に進みました。冬の季語をいくつか紹介しました。「辞書を使ってもいいです。友達と話してもいいです。私に聞いてもいいです。」と前置き。数人の学生が言葉を聞いてきました。「あれは、何ですか」と、太陽の光を指さした学生に「日差し」を紹介しました。「純粋の読み方を教えてください」という香港の学生もいました。ほとんどの学生はあまり聞いては来ないで2句から3句作りました。ここで授業の終了時間。

1月に入ったら、まず、クラスみんなで、みんなの俳句を鑑賞。そしてみんなの俳句を拡大して、成果物として廊下に貼ろう。出来れば他のクラスの学生たちに選句してもらおうという予定になっています。最後になりますが、実はみんなの俳句、そのまま「第六回静岡産業大学俳句コンテスト」に出して応募しました。もちろん、入賞とかは全く考えていませんが、せっかくだから出してみようということになりました。

有名な俳句や日本人の小中学生の俳句を鑑賞するだけ終わっていたら、多分、教師側から与えるだけの授業になってしまったかもしれません。イーストウェスト校の俳句、自分たちと同じ留学生が作った俳句を鑑賞して選句するということを、授業に取り入れさせてもらったおかげで、授業の中心に学生たちがいたという実感が、今、あります。ありがとうございました。

2016年度選句用紙(イーストウエスト日本語学校)

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