実践報告&現場の声

(俳句)「留学生の俳句ー伝える思い 初めての日本の秋―」

「留学生の俳句ー伝える思い 初めての日本の秋―」   森 節子

私の勤務先のイーストウエスト日本語学校で、今年も秋の俳句作りがありました。


今年の留学生達の「日本の秋」はどんな俳句になって現れるんだろう…と私自身もワクワクしながら、俳句の授業に臨みました。

「皆さん、俳句というのは何か知っていますか」と問いかけると、知っているという返事はゼロ。そこで、俳句のリズムを手拍子で感じてもらおうと、みんなで「タタタタタ・タタタタタタタ・タタタタタ」と言いながら手を叩くことから始めました。「この『タタタタタ』にひらがなを一つずつ入れて、世界でいちばん短い詩を作ります」と言うと、「えっ?詩?詩は苦手です。できません」と言っていた人も、「それだけならできるんじゃないかな」という表情に変わっていきました。

俳句作りを始めてみると、「自分の国に秋はない」と言っていた人も「秋」がわからないという反応ではなく、「日本の秋」を自分なりに頭の中に描いていたことが分かってきました。

「先生、今はすごく寒いですから、もう冬ですね。今年は夏の次にもう冬が来ましたか」

「紅葉はいつですか」

「どこへ行ったら見ることができますか」


など、次々に質問が飛んできます。質問をよく聞いていると、「日本の秋は涼しくて、紅葉が美しい」というイメースマホを持つ留学生ジが共通していました。虫の声や、ススキ、月、赤とんぼ、などの季語も紹介すると、それを初めて見聞きした人もいましたが、みんなの持っている秋のイメージが膨らんでいったように思います。

今年のA1クラスの俳句を紹介させていただきます。このクラスの学習者は全部で18名、4月に初級1課から始め、俳句を作り始めた時点では『できる日本語 初中級』終了直前というレベルです。

※学習者の出身国・地域:

中国=6名、ベトナム=5名、

スリランカ=2名、台湾=2名

モンゴル=1名、ミャンマー=1名、バングラデシュ=1名

                       ・

1 秋の山 写真を撮って 笑い声

2 一人だけ 誰も来ません 秋の風

3 りょうしんが 帰ってひとり 秋の雨

4 恋人が 離れていった 秋の風

5 虫の声 よく聞こえます 山の道

6 秋の風 学校休み いいきもち

7 ひとりだけ いわし雲見て 国思う
                              ・
8 あきのかぜ かぞくをおもう はなしたい

9 月を見て 母に会いたい つぶやいた

10 朝の風 町を歩いて もみじ見る

11 同じ月 あなたも見てる 向こうから

12 物思う 赤い葉っぱが ゆれている

13 朝早く 富士の初雪 ひとり見た

14 朝早く 学校へ行く 柿を見る

15 虫の声 夜のささやき なつかしい

16 まどの月 父母見てる 何してる

17 秋の月 ひとりで見てる さびしいな

18 秋のとき 景色見られる すばらしい

句会当日、句会が始まるぎりぎりまで、自分が作る俳句にどんなことばを入れたら言いたいことが伝わるのか考え抜いて、質問のときにもその気持ちを伝えようと教師に一生懸命に説明してくれました。いくつか例を挙げてみます。

「今、両親が国へ帰ってすごく寂しいです。この気持はどんな言葉にしたらいいですか」

「先生、『いろんなことをたくさんたくさん考えている』って言いたいです。短いことばでどう言ったらいいですか。5つです。タタタタタ」

「『お母さんに会いたい』は一人で言いました。友達といっしょじゃありません。どう言ったらいいですか」

さて、いよいよ句会です。クラスメイトが作った俳句を教室のホワイトボードに貼り出して、それぞれの句に番号をつけ、自分の好きな俳句の番号を書いて投票しました。蓋を開けてみると、最多数でも4票。学生たちが「いい」と思った句は大きく分かれました。

クラス代表句は4番の句になりました。この4番の俳句を選んだ人にどうしてその句を選んだのか聞いてみると、「私もベトナムの恋人と別れて、日本に来ましたから、作った人の気持ちがとてもよくわかりました」と話してくれました。他の人からも「私も……」という声があがって、ちょっと教室が静かになってから、この句を作った人に話を聞くと、「この間11月11日でした。11月11日は国では『独身の日』です。私は恋人がいません。独身の日だからこんな俳句はおもしろいと思って作りました」と言う答えが……。「ええ~~っ?!」とクラスは笑い声に包まれました。

他にも、6番の俳句では選句者が「学校が休みの日に、散歩するのは気持ちがいいです。自由にいろんなことができます」と言ったのに対して、俳句を作った人は「学校が休みで、家にいて何にもしないで寝るのはいい気持だと思って作りました」というので、また笑い声。「2番とか4番の『秋の風』と6番の『秋の風』は全然違います」など、句会でいろいろな感じ方や思いを伝えあうことができました。

今回の俳句作りを通して、来日して半年の留学生がそれぞれの思いを俳句という形で表すことができたことに大きな感動を覚えました。そして、その俳句を詠んだ思いをお互いに伝えあうことで、寂しさ、楽しさなどの思いを情景とともに共有できることの素晴らしさを感じました。担当した教師間でもその思いは共通で、学生達にも感じたことを正直に伝えました。後日、みんなで短冊に俳句を書いて記念写真を撮ったのですが、クラス全員の表情が明るく誇らしげで、とてもいい写真になりました。

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