実践報告&現場の声

(俳句)俳句の授業(千葉国際学院:中村香理さん)

先日のアクラス研修で、「穴埋め俳句」について学んだことを、早速授業に取り入れてみました。今回は、卒業前の学生を対象に90分×3回の授業を行い、最後に「卒業を前にした今の気持ち」をテーマに俳句を作ってもらいました。

 

<1回目の授業>

目標としては、「俳句がどんなものかわかる」「俳句を鑑賞して楽しめる」「俳句に対するハードルを下げる」ことを挙げて、授業に挑みました。

「俳句」について最初少し話すと、学生は眉間にしわを寄せて難しい顔をしていましたが、最後には楽しめている様子でした。

 

導入として、各国の詩について対話した後、「俳句は世界一短い詩である」ことを伝えました。そして、芭蕉の「古池や 蛙飛び込む 水の音」を紹介し、しばらく頭の中でイメージを作ってもらいました。その後、どんな音が聞こえたか発表。学生からは「ボン」「ポン」「ポチャ」「ピュン」など1人1人違う意見が出てきました。そして、どうしてその音が聞こえたのかについて対話し、人によって受け取り方は多様であることを学生も楽しんでいるようでした。そこから、俳句は読み手がいて初めて完成するものであること、読み手は自由に受け取っていいということを伝えました。

次に、芭蕉の俳句を使って、簡単に5−7−5や季語などの俳句のルールの説明を入れました。アクラス研修で学習者は5−7−5にとらわれすぎてしまうことを聞いていたので、このリズムは基本であって、少し違う分には構わないことを伝えました。季語については、ルールとしてではなく、季節だけでなく、景色や複雑な感情を短い言葉で表すことができる便利なものだということを理解してほしかったので、1月2月に雪が降った時のことを思い出してもらいました。そのとき、何をしたか聞いたら、大半の学生が写真を撮ったとのこと。その理由としては、「あとで見て思い出すため」という意見が出たので、そこから、俳句は写真と同じで感動したことや強く心に残ったことを後で思い出すために書くので、後で見たときに頭の中にその時のことがイメージできるように季語があると伝えました。

最後に、俳句の鑑賞をしました。紹介したのは以下の俳句です。

  • うまそうな 雪がふうわり ふわりかな (小林一茶)
  • 菜の花や 月は東に 日は西に(与謝蕪村)
  • ももの花 いもうとはまだ 三つです (小学1年生)

1つ1つ紹介し、イメージを膨らませてもらい、どんなイメージができたか等の意見をはっぴょうしてもらいました。国や人によって少しイメージが違うことはもちろん、誰が読んでも同じイメージであることも楽しんでいたように思います。

 

<2回目の授業>

2回目の目標は、「季語についての知識を深める」「穴埋め俳句を楽しむ」「俳句作成につなげる」ということでした。

この日は、授業の初めから「先生、今日は俳句やりますよね?」と学生から聞いてきました。楽しみにしてくれていることがわかり、とても嬉しく思いました。

 

まず、前回の授業の季語について思い出してもらうことから始めました。そして、学生の頭の中にあるそれぞれの季節の季語を挙げてもらいました。春の季語として、「桜」が一番始めに出たので、そのイメージや感情を考えてもらったところ、「あたたかい」「きれい」「うれしい」などのプラスイメージが多く出てきました。その後、「花曇り」という言葉を提示し、「曇り」のイメージを考えてもらいました。「不安」「心配」「怖い」などのマイナスイメージが出てきました。そして「花曇り」はどんな気持ちかと質問すると、「今の私の気持ちと同じです」という学生がいました。新しい生活が始まる、2年間の勉強が終わった嬉しい気持ちと、この先どうなって行くのかという不安で、言葉では説明できない複雑な気持ちだと説明してくれました。それを、「花曇り」という短い言葉でぴったり表すことができることに気づき、急にぱっと顔が明るくなって嬉しそうな表情をしていました。アクラス研修で、俳句は癒しの効果もあるということを聞いていましたが、自分の気持ちをぴったり表す言葉で表現するということが本当に癒しになることを私自身も実感しました。次に、同じ紅葉でも「紅葉」と「落ち葉」「夕紅葉」ではイメージや印象が異なることを確認しました。この段階で、ほとんどの学生が季語のすばらしい効果についてよく理解してくれていたと思います。

 

そして、アクラス研修で教えていただいた「穴埋め俳句」を実践。3人のグループにわけ、以下の穴埋め俳句を考えてもらい、最後に発表してもらいました。語彙の意味等は、最初に説明しました。(俳句の下に表記してあるものが学生からの意見です)

 

A  落ち椿 我ならば    に落つ

①死のイメージの解答・・・故郷/空(死は故郷で迎えたい、死んだら空からみんなを見ている)

②恋愛のイメージの解答・・・ポケット(好きな人のポケットに入ってずっといっしょにいたい)

③新しいイメージの解答・・・大洋/川/滝(死んだらまた新しい所へ行って、スタートしたい)

④柔らかいイメージの解答・・・草原/水面(落ちたとき痛くないから)

 

B      して 沖遠く 泳ぐなり

①人生のイメージの解答

夢を追求(海は人生、夢に向かって進んで行く

将来を目指(振り向かず、前だけ向いて)

チャレンジ(自分の限界を知るため)

②老後のイメージの解答

のんびり

③故郷のイメージの解答

思いだ(海を泳いででも帰りたい!)

④その他

成長

成功

宝を探(ワンピースみたい。宝は珍しい魚!) *ワンピース大好きな学生の解答

 

C     の 友のみ若し 霜柱

①寿命(霜柱は、時間が止まっているイメージ。もうすぐ寿命で死んでしまう友達も時間が止まって

死なないでほしい)

②友情(友情は若い時から年をとってもずっと変わらないもの)

 

Cの穴埋めはとても頭を悩ませていましたが、人それぞれの意見を尊重し楽しんでいました。普段はなかなか意見を言わない消極的な学生も、自ら発表していたのも印象的でした。そして、学生に全ての俳句の穴部分(A急流/B愛されず/C戦没)を教え、少し解説・・・すると、Cの俳句について学生同士で「戦争へ行って自分だけ生き残ってしまったのかもしれない」「悲しいね」などと話している声が聞こえてきました。「全部ちょっと悲しい俳句ですね」という意見が出たので、最後におまけで以下の穴埋め俳句も急遽入れました。

 

D ゆるやかに着て 人と逢う    の夜

①デートのイメージ・・・満月(浴衣を着て満月を見ている)

②恋愛のイメージ・・・結婚式/新婚

③別れのイメージ・・・最後/冬/別離/真っ暗(もう別れるからきれいな服じゃなくてもいい)

④その他・・・ハロウィン

この段階になると、口々に色々な意見が出てくるようになり、学生にも自由に楽しんでいいということが伝わったようでした。

 

最後に、ついに次回は俳句を作るということを伝えると、「後で読んだときに、今の気持ちを思い出せるような俳句を作りましょう!」と学生から学生への呼びかけが自然に起こりました。

 

 

<3回目の授業>

いよいよ、俳句を実際に作ってみる授業。初めに、アクラス研修で教えていただいた俳句のルール「は・・・はっとしたこと、発見したことを / い・・・いつかわかるように季語を使って / く・・・組み立ては5−7−5」を確認、コーラスしました。1回目に難しそうな顔をしていた学生も、すっかり俳句の世界に入り、集中して考えていました。学生はできた俳句から、「先生、ちょっと見てください」と声をかけてきたり、「こんなことが言いたいんだけどどうやったらいいですか」など相談してきたり、「もっといい言葉ありますか」など意見を求めてきたり、教室全体は静かでしたが、学生の頭はフル回転しているようでした。そしてできた俳句が以下です。実際には、俳句用の短冊に書いてもらいました。

 

散る桜 また咲く桜 古い本            桃の花 心に刻む 別れのとき

 

花の香に さそわれ心 遠くまで          花落ちて まだその道は 行く人なし

 

桜咲く 花色の頬 風に舞う            冬過ぎて 春になったら 大学生

 

花曇り 涙や花びら 本に落つ           春祭り 風に舞う花 ピンク空

 

花の並木 心静かに 自由な飛躍          名月を どこに行っても みんなと一緒

 

花曇り 2年が終わる 夢のよう          蛍の夜 光り見つめて 時過ぎる

 

月ばかり 月である空 愛してる          散る桜 落ちた花びら 年を取る

 

実際の短冊は、文字のフォントに工夫をしたり、絵を描いたり、思い思いの作品ができあがりました。

 

 

<全体を通して>

最後に俳句を作るということをゴールにしましたが、私自身は俳句を通して対話をし、多様性を楽しんでもらいたいという気持ちが強かったです。そして、学生は授業の中で様々な考えを聞き、驚いたり共感したり感動したりしていたので、本当にやってよかったと感じました。学生からは、「ぜひ、後輩達にもこの授業をやってあげてください。」との意見ももらいました。

実際に、俳句を作る場面では、来日から今までの時間を振り返り、色々感じることがあったようです。卒業直前に、書いてもらった俳句の発表(どういう気持ちでこの俳句を作ったのか等)を含め、1人1人最後の挨拶の時間を作りました。その時間が、とても全員にとって貴重な時間になりました。

俳句を通して、たくさんのことを学生はもちろん、私も学ぶことができました。今後もこのような授業を行って行きたいと思っています。

 

 

 

関連記事