実践報告&現場の声

(現場の声-11)「わかる日本語」から「できる日本語」へ 東禾国際外語学校

東禾国際外語学校
滝沢佳代子

私が教えている学校(補習班)では1つのクラスに青少年から中年まで様々な背景の方が集まり、学業や仕事などの合間に日本語を学びに来る方がほとんどです。以前は全てのクラスで『みんなの日本語』を使用していましたが、2018年3月に開講したクラスから徐々に『できる日本語』に切り替え、現在では『できる日本語』クラスが増えていく中で『みんなの日本語』クラスも混在しているという状態にあります。

『みんなの日本語』のみを使用していたころは、当然のこととして単語・文型導入・口慣らし練習・教室活動のそれぞれを準備し、行っていましたが、学生は授業中に教えたことはこなせても、時間が経つと忘れていたり、中には「あんなに勉強したのに日本へ留学したら実際の場面で出てきませんでした。」なんて声もたまに聞きました。でも、そのころは『できる日本語』にも疎く、先生たちが苦労して積み上げてきた『みんなの日本語』の授業を変えようとは思っていませんでした。

当校では教科書を使用した正規クラス以外に会話クラスがあり、そのクラスで『できる日本語』を使うことができるかどうかご意見を伺うためにアクラス日本語教育研究所へ出向き、嶋田先生を訪ねたところ、はっきりこの教科書は「会話」だけを学ぶためのものではないと教えていただき、その後、『できる日本語』研究が始まりました。知れば知るほど今までの問題が希望に変わっていき、校内で話し合いを経て変革に踏み切りました。その後、台湾で行われたOPI国際シンポジウムに参加し、嶋田先生にも学内研修に来ていただき、正式に切り替える前に試験クラスでモニタリングして、2018年3月の『できる日本語』クラス開講に至りました。

今、実際に『できる日本語』を使っていてはっきりわかることですが、以前の教え方では学習者が実際にその場面に遭遇した際、とっさに適切な言葉が口から出てくる人は多くありません。なぜかと言うと、いざその場面に遭遇したら、まず使えそうな文型を探し、接続などを考えたり…と、その場で言葉を組み立てているからです。自動車にたとえると、いろいろなパーツを与え、組み立てる練習もするが、自動車を運転する際にまた組み立て直さなければならないといったようなものです。『できる日本語』は目的や用途に合った自動車を見て、そのパーツや構造を理解し、実際に試乗してから乗って帰るといったイメージです。

言葉は作るものではなくて使うものです。文型を中心にした教え方では言葉の一部にだけ重点を置いているので、言語コミュニケーションもスムーズにできません。具体的な例を出すと、『できる日本語』初級の第14課に「私の意見」というトピックがありますが、ここでは自分の意見を言ったり相手の意見を聞くときに使う「~と思います」や「~についてどう思いますか。」を練習します。教科書の中には日本人がよく使う相手の意見をいったん肯定してから自分の意見を言うといった会話テクニックがあったり、理由を述べてから自分の意見を言う練習があったり、比較しながら意見を述べる練習をしたり…と、実際の会話で使える練習が満載です。『みんなの日本語』で教えていた時には「台中の生活についてどう思いますか。」と尋ねると「いいと思います。」などと単文でしか言えなかったり、無理やり理由を言ってもらっていたのが、『できる日本語』では初めから導くことによって「うーん。天気がよくて親切な人が多いですから、いいと思います。」と自然に意見を言える人が多く、その差に驚いたことが何回もあります。

この教科書を使うと自分のことを話す機会が多く、多くのクラスで「対話」が生まれ、ある教師からは「今まで深く話し合ったことがなかったけど、教科書が変わってから学生の生活の様子や考え方をクラスメイトや私と話し合うことで学生間の絆が深まりました。」と言われ、共感し感動を覚えたこともあります。

まだ抱えている課題もあり変革途中にありますが、すでに校内全ての教師が『できる日本語』クラスを担当している今、これまでの内省を踏まえ教師仲間と「学びの共同体」を軸にして、教師間から学生間へとその共同体を広げられるよう、セカンドステージに進んで行きたいと思っています。

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