実践報告&現場の声

(現場の声-12)『できる日本語』が効果的な理由 シンガポールの現場から~越川牧子

越川牧子

●シンガポールでの日本語学習環境
なぜ『できる日本語』が魅力的テキストなのかをお話する前に、わたしの教えている学習環境から少しお話しします。教えているのは、シンガポール各地のコミュニティセンター、大学のスタッフクラブ、そしてプライベートなどです。学習者のバックグラウンドは様々、趣味で会社帰りにご飯も食べずに来る(笑)会社員、現在兵役中のアニメファンの若者、政府の国民への教育補助金を利用して日本語を学び始めた主婦や年配の方、更に大学の外国人研究者などなどです。漢字を読める中華系シンガポール人もいれば、そうでないマレー系、インド系シンガポール人や欧米人などもいます。頻度は週1回2時間のレッスンが中心、日常で日本語に触れる機会は限られています。
●『できる日本語』と出会った経緯
これまで使っていたテキストには、文型も例文も全部書いてあって体系的に学べるという利点があった一方、会話の内容が、習ったことを使うがために作られた会話というふうに感じられました。だからといって、日常出くわす会話へと肉付けするには時間がかかりすぎたり、決まったパターン練習がかえって広がりを制限してしまうと感じることもありました。そんな私にとって『できる日本語』との出会いはまさに「こんなテキストが欲しかった!」という感じでした。生徒が「これを言いたい」と思って取り組むようになりました。このテキストを時間をかけて築いてこられた嶋田和子先生とそのチームの先生方から教えていただいたことは、これからの教え方に大きな指針を与えてくれました。惜しみなく教えていただいた者の一人としてわたしが現場で感じている『できる日本語』がもたらした効果の一部を紹介させてください。

   ベティさんとご家族

ベティさんとご家族

●『できる日本語』がもたらした2つの効果
その1はスパイラルラーニング。以前習った表現が、またしばらくすると別の形でひょっこり顔を出してくれるので確認しながら、また一歩前進していくことができます。例えば、第5課の3で「渋谷へ映画を見に行きます」という表現を習ったとします。するとその後の第6課の1で「一緒に見に行きませんか」という誘いの表現で再び登場します。そうすると一度習っても忘れてしまっていた学習者が「あ、そうだった」と助けられたり、また一つの基本表現を軸にして想像したり発展させたりする力が養われていくのを感じます。例えば、コミュニティーセンターのクラスに通うベティさんは今71歳です。「日本語の勉強をなぜこの歳で始めたの?」とたずねると大阪に留学した娘さんが日本人男性と出会い、結婚したばかりなんだそうです。義理の息子さんと会話をするために、こうやって日本語クラスに頑張って通ってきているんですね。週1回のクラスの外でも、毎日習った日本語を紙に書いて練習しています。それでも本人曰く習ったことを年のせいで、すぐ忘れてしまうんだそうです。このような生徒さんにとっても『できる日本語』の特徴の一つ、スパイラルラーニングが大きな助けになっています。
その2はワクワク感。『できる』にはたくさんのワクワク感が詰まっています。各スモールトピックにも何ができるようになるかという明確な目標が先に提示されています。これは目に見える目標を達成したいというシンガポール学習者の気質に大変合っているように思います。いや、目標達成感を味わいたいのはシンガポール人だけではありませんよね。そして『チャレンジ!』今までは新しい文型や表現を学んだ最後の最後にそれらが全部入った会話を学ぶパターンでやっていました。ところが『できる』ではまず絵を見て学習者が知っている言葉で考えてみる、この段階で「言いたいけど手持ちのコマでは足りないな」という気づきが生まれます。この足りないコマを意識した上でリスニングに入るので、学習者は身を乗り出して足りないコマを探しています。ここにもワクワク感が生まれます。さらに『言ってみよう』で新しい文型を練習後もう一度先ほどの会話を聞くとあら不思議!(笑)さっきは分からなかった表現が聞き取れるようになっています。このBEFOREとAFTERの違いを、「言いたいけど言えなかった」から「言いたいことが言えるようになった」を体感できることで更にワクワク感が高まります。

「好きなお店」を発表中です!

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何といっても、自由度マックスのクライマックスである各課最後の『できる!』では、クラスの一体感がぐっと高まるのを感じます。あるレッスンでは、第2課の『できる!』で「さあ、フリマ(=フリーマーケット)でお買い物をしよう!」と題して、お店グループとお客さんグループに分かれて100円ショップで購入した偽札を片手にゲームを開始しました。すると、お店チームは、自分の履いている靴や携帯を並べて、「1つ買うと1つおまけ。安いよ~」など教科書にはない表現も交えます。お客さんチームも負けじと「あのう、すみません。割引はありますか。」と値切ります。そこで「もっと」を使うと更に割引してもらえるよ、と教えたら「もっと、もっと割引」と最後まで連呼し爆笑の渦になってしまいました。言うまでもなく彼のニックネームはその日以来、「モットさん」になっています。また同じ課の『話読聞書』では「好きなお店」を日本語で紹介するプレゼンをしてもらいました。すると耳が遠くてクラスでは何も発言しないおじいさんが、「先生、私の作文をチェックしてください」と直々に願い出てきた後、よっぽどお家で練習したらしく当日、おじいさんは「丸亀製麺」のうどんがどんなにおいしくお得かを見事に紹介して拍手を浴びていました。わたしはこんな場面が大好きです。日本以上に競争社会のシンガポールでは会社の中で口うるさい?上司に叩かれたり、人間関係にストレスを感じていたり、学生も小学校6年生でレベル分けされてしまう競争の中で学校生活を送っています。だからせめてこの日本語クラスの中では、上下関係もなく、リラックスして大笑いして、コミュニケーションの楽しさを味わう時間になればいいと思っています。そういう意味でも各課最後の『できる!』はクラス全体にワクワクを提供してくれています。
まだまだあげたい効果がたくさんありますが、レッスンの準備をするわたし自身にもワクワク感が生まれたことを最後に触れさせていただきます。

●ビデオ―『できる日本語』のクラスの様子や学習者の声を収めたビデオは、下記にある自身のフェースブックページから見られますのでお楽しみください。
Facebook Page: 『シンガぺらぺら SingaPeraPera』https://www.facebook.com/singaperapera/videos/625084091271311/

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