実践報告&現場の声

(現場の声-9)学習者も教師も成長する『できる日本語』 エリート日本語学校

江戸カルチャーセンター・友国際文化学院・エリート日本語学校
白石 佳和

 私が江戸カルチャーセンターで悪戦苦闘の教務主任1年目を終える頃に出会ったのが、 『できる日本語』と嶋田和子先生です。折しも2010年、日本語能力試験改定の年で、その前後から、CEFRや日本語教育スタンダードの議論が盛んになっていました。勉強不足の私は必死で勉強し、経営者からは「学校の大きな方針を示せ」と言われ、悩んでいたときに、 『できる日本語』という新しい教科書の説明会に出たのです。それが日本語教師としての私にとって、こんなに大きな出会いになるとは、当時は思いもしませんでした。

 最初の頃は本当に苦労しました。課題遂行シラバスとは何か、頭で理解したつもりになっていても、私を含め学校の先生たちにとって初めてで、文法中心の考え方から抜け出せませんでした。課の最後の「できる!」の使い方がわからず、やらずにすませることもしばしば。ちょっとおかしいなと感じ、嶋田先生に相談に乗っていただき、いろいろアドバイスを受け、さらにイーストウエストの授業を見学させていただきました。『できる日本語 初級』の5課あたりだったと思います。授業が終わると一番後ろに座っていた学習者がつかつかと前に出て「〇〇の花火大会に行きませんか」とみんなに呼びかけ始めました。私は本当に驚きました。授業ももちろん参考になったのですが、このときの驚きが『できる日本語』への理解を深め、大げさに言えば私自身の日本語教育観も変わった瞬間でした。

 なぜ『できる日本語』を使った授業が楽しいのか。それは、学習者が「言いたい・話した い」を大切にし、学習者が積極的・主体的になって授業に参加し、それによって教室内・さらには教室の外に向かってコミュニティを作るからだと思います。そこから、先生たちの意識も変わり、学習者も変わってきました。自分を表現することの喜びを積み重ね、イキイキ してくる学習者を見るのが楽しみでした。先生方も、どうやったら教師中心ではなく学習者中心で授業ができるか、教室内にコミュニティをどうやって作っていくか、地域とつながる には、などと悩みも深化していきました。それは教師たちにとっても本当に勉強になりまし た。

 『できる日本語』を採用する上で私が一番苦心したのは、評価をどう行うか、です。嶋田先生の勧めもあり、OPIテスター資格を取得し、学校全体の評価のしかたに本当に役立ちました。インストラクショナルデザインやその他の評価法を学んでいき、今思うのは、評価は点数をつけるために行うのではなく、学習者を伸ばすために行うのだ、ということです。学校にいるとどうしても評価=点数付け・成績表作成、となってしまいます。それは実は本末転倒で、なぜ点数をつけ、成績表を出すかというと、今の自分の実力を把握し教師からアド バイスしたりリフレクションすることによって「自分の力を伸ばす」ためです。そのことに 気づき始めてから、評価しなければならないというプレッシャーから解放され、方向性が定 まりました。本の末尾にあるシラバス一覧には、課ごと、ST(スモールトピック)ごとに 「行動目標」「できること」が書いてあります。この目標が本当に重要です。チームで組ん でいる教師とその目標を共有し、学習者にも目標設定や評価基準を示すことで、学習者の取り組みが変わります。

 『できる日本語』に出会ってから今まで、自分が学校で感じたことの一部を簡単にまとめてみました。参考になる部分があれば幸いです。これからも学習者や教師仲間と一緒に成長していきたいと思います。これを読んでいるみなさん、どこかでつながりましょう。

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